この記事では、大学院入試や論文執筆前に必要な研究計画の作成方法を紹介します。
論文執筆や大学院入試を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
※本記事は、筆者の大学院での研究成果や経験に基づき、社会科学分野の研究計画書の作成方法に焦点を当てています。ただし、研究エリアによって適切な作成方法は異なる場合がありますので、ご注意ください。
▼筆者のプロフィールは下記参照
はじめに
大学院入試を検討している方や卒業論文などで研究を行う必要がある方にとって、「研究計画書」の作成は不可欠です。
しかしながら、多くの方が研究計画書の作成方法や研究テーマの決定、学術的に評価される論文の作成方法について悩んでいることでしょう。
そこで、国内外で二つの修士号を取得し、海外の経済ジャーナルに研究成果を投稿した経験を持つ筆者が、評価されるな研究計画書の書き方をご紹介します。私の修士号は経済学と国際学の分野になりますので、同じ研究エリアに興味をお持ちの方に特に参考になると思います。是非ご覧ください。
▼筆者が執筆した論文
▼論文を投稿した研究機関
魅力的な研究計画書の書き方
ステップ1:研究テーマの選定する
まず、論文執筆の際に欠かせないのが「研究テーマの選定」です。興味関心のあるテーマの選定は重要ですが、学術的に重要性が低いテーマや研究が難しいテーマもあります。以下のポイントを参考に、適切な研究テーマを見つけましょう。
研究のテーマを選定する際のチェック項目
好ましくないテーマの例
- 個人的な趣味や好み: 一般的な学術的関心や社会問題と関連性が乏しいテーマは避けましょう。
- ピンポイントすぎるテーマ: 研究成果が一般化できない場合、学術的評価が低くなる可能性があります。
適切なテーマの選定ポイント
- 新しい情報を提供できるテーマ: 過去の研究とは異なる情報を提供することが重要です。
- 一般化可能な成果を出せるテーマ: 研究成果が一般化可能で、多くの人に影響を与えられるものが好ましいです。
以上のポイントを参考に、研究テーマを選定しましょう。
上記について例を用いた具体的な説明を知りたい方は下記「研究テーマの選定」に関する詳細な解説をクリックしてください!
「研究テーマの選定」に関する詳細な解説
まず、研究テーマが社会的な問題や学術的な関心事に関連しているかどうかを確認する必要があります。研究は作文ではありませんので、自己満足ではなく、誰かのために役に立つ情報を提供する必要があります。その情報・発見の社会的重要性が高いほどあなたの研究は魅力的なものになります。また自身の研究に独自性や新規性が担保されていないと、他人が発見したものの真似事になってしまう点も注意が必要です。
研究の重要性を欠いたテーマの一例としては、個人的な好みや趣味に関するテーマがあります。たとえば、特定のアニメの人気ランキングや好きなアイドルグループのメンバーの比較など、一般的に学術的な関心や社会的な問題とは関連性が乏しいテーマは、研究の重要性が不十分であると言えます。
また、社会的問題にフォーカスしていても、研究テーマがピンポイントすぎる場合も学術的な評価がされにくい可能性があります。例えば、「A県B地区C氏に在住するホームレスDさんの生活について」というテーマを掲げたとします。このテーマだと、ホームレス問題に着目しているので、社会問題にフォーカスしていますし、Dさんという特定の人物をピックアップしているので研究テーマの独自性も担保できているでしょう。しかしながら、この研究で明らかになるであろう研究成果はDさんのケースにしか当てはまらない可能性が高く、一般的なホームレス問題の解決に大きく寄与できない可能性があります。つまり、自分の研究から得られる発見・成果によって、それを一般化することができ、より多くの人に便益を与えられるもののほうが好ましいのです。もちろん、特定の民族の生活習慣をエスノグラフィーの研究手法を用いて明らかにするといった定性的なミクロな研究もあるので、一概にピンポイントな研究が学術的意義が小さいとは断言できませんが、一般的に研究の影響力が過小評価される可能性が高いことは念頭に置いておくべきでしょう。しかし、研究テーマをミクロなものにするほど、新規性や独自性を示しやすい点は一つの利点です。
上記の注意点は別に、研究の実行可能性を確認することも非常に重要です。テーマを選定し、いざ研究を進めた際に、アクセス可能なデータがなく研究を進められない事態に陥ると、研究テーマをまた作り直す必要があります。筆者もこのポイントを考慮せず、研究を進めた結果、必要なデータを集めることができず、研究テーマを変更した経験があります。
全体的なポイントとしては、社会・経済問題から自分が興味関心のあるトピックを選び、過去に研究されていない、先行研究でその結果について議論されている、または過去の発見にプラスアルファを提供できる研究テーマが学術的な評価ポイントが高いです。また、そこから得られる研究成果が「一般化」でき、より多くの人や社会に影響を与えられるものが好ましいです。
ステップ2:研究計画書の構成を組み立てる
研究テーマが決まった後、すぐに研究計画書の作成に取り掛かりたいところですが、その前に「研究計画書の構成」を考えることが重要です。
これは多くの分野に応用できる考え方ですが、初めに物事の枠組みを作成することで、より完成度の高い成果を得ることができます。例えば、家を建てる際にも、まず設計図を細かく作成してから建築に取り掛かりますよね?研究計画書や論文執筆も同様で、自分が執筆する論文・研究計画の設計図(構成)を考える必要があります。
評価されやすい研究計画書の構成は研究テーマによって異なる場合がありますが、私のおすすめの構成は以下の通りです。
- 研究の背景
- 問題提起
- リサーチクエスチョン
- 研究の目的・重要性
- 先行研究
- 研究手法・データ
ここで重要なのは、論理的な研究計画書の構成を作成することです。いくら良い研究内容であっても、構成に一貫性がなければ読者は理解できず、読み手に不親切な論文になってしまいます。研究とは、誰かに読んでもらって初めて意味があるものです。つまり、内容はもちろんのこと、読み手の気持ちを考え、ロジカルな構成で研究計画書を作成する必要があります。
ステップ3:研究計画書の構成に基づいて執筆を開始する
ここでは、先ほど紹介した研究計画書の構成ごとに、私が実際に執筆した論文を例に出しながらポイントをまとめて紹介します。
研究の背景
「研究の背景」では、あなたが選定したテーマに関する一般的な情報や歴史をまとめます。すべての読者があなたの研究テーマについて専門知識を持っているわけではないので、研究テーマについての概要を提供することがポイントです。勘違いしてはいけないのは、「あなたがこの研究に関心を持った背景や理由」を記載するのではなく、「あなたの研究テーマに関する歴史的・統計的・社会的背景」を説明する部分であるという点です。
筆者の研究を用いた「研究背景」の具体例
冒頭で私の論文に関するリンクを張りましたが、私が執筆した論文の研究テーマは「ASEANと韓国の自由貿易協定(AKFTA)が海外直接投資(FDI)に与える影響」です。
研究背景として、まず、AKFTAとFDIの説明や定義に加え、それぞれのこれまでの潮流や歴史を説明しています。また、具体的な統計指標を用いながら、研究対象であるFDIの社会的重要性を伝えることを意識しています。
冒頭でこの「研究背景」を記載することで、専門性のない読者も研究内容を理解しやすくなりますし、あなたが「何に対して研究したいのか」を明確にすることができます。
問題提起
「問題提起」では、あなたの研究テーマのどこに議論や問題があるのかを示すパートになります。ステップ1に従って研究テーマを選定したのであれば、あなたの研究テーマには、社会的・経済的・学術的な問題点や論点があるはずです。その点を過去の先行研究の事例を引き合いに出しながら説明することが重要です。
筆者の研究を用いた「問題提起」の具体例
私の研究では、自由貿易協定(FTA)が海外直接投資(FDI)に与える影響が学術的に明確になっておらず、FDIの種類やFTAの性質によって結果が異なる点を問題提起としました。
例えば、先行研究でAの論文は「FTAはFDIを増加させる」としている一方で、Bの論文では「FTAはFDIを減少させる」と主張している場合、この研究テーマには学術的な論争があることになります。
私の研究では、韓国とASEANの自由貿易協定(AKFTA)をケーススタディとして取り上げ、このテーマに学術的な論点が存在することを「問題提起」のパートで示しています。これにより、独自性を確保しながら研究の重要性を明確にしています。
リサーチクエスチョン
「リサーチクエスチョン」では、研究テーマの背景や問題提起に基づいて、「あなたの研究で明らかにしたいこと」を記載します。リサーチクエスチョンは、あなたの研究テーマに関連していれば複数あっても問題ありません。これらのリサーチクエスチョンがあなたの論文の核となりますので、あなたはこのリサーチクエスチョンに答えるための分析を行うことになります。
筆者の研究を用いた「リサーチクエスチョン」の具体例
私の研究におけるリサーチクエスチョンは、上述の問題提起に基づき「韓国とASEANの自由貿易協定(AKFTA)が海外直接投資(FDI)に与える影響は正なのか負なのか」および「その影響はどの程度なのか」という点です。
実際の論文では、新規性や独自性の付加価値をつけるために、より詳細かつ具体的な条件を付けたリサーチクエスチョンにしていますが、私の研究で明らかにしたいメインのポイントは上記のリサーチクエスチョンです。
後に説明する研究手法を用いて、このリサーチクエスチョンを明らかにすることが、この研究から得られる結果となります。
研究の目的・重要性
「研究の目的・重要性」では、あなたのリサーチクエスチョンを明らかにすることで、社会的・学術的にどのような意義があるのかを説明するパートになります。テーマ選定で記載したように、研究計画や論文において、その研究を行う意義を主張できることが、評価される論文の大きな要因となります。実際に学会での論文発表や大学院入試でも、「あなたの研究を行うことに何の意味があるのか」と質問されることは多々あります。「この質問に答えることができない=あなたの研究には社会的・学術的に価値がない」と評価されてしまうので、この部分はあなたの研究計画書に必ず記載しておいたほうが良いです。
筆者の研究を用いた「研究の目的・重要性」の具体例
私の研究では、自由貿易協定(FTA)が海外直接投資(FDI)に与える影響が学術的な論点となっていることを引用し、AKFTAの場合における結果を明らかにすることで、この学術的論点に新たな知見を提供する意義を持っています。
また、過去の先行研究にはないデータや統計学的問題点を克服することで、研究成果の信頼性の確保や研究のオリジナリティを主張しています。
加えて、AKFTAのFDIに与える影響を明らかにすることで、AKFTAを結ぶ経済的妥当性を判断する一つの材料を提供し、政策提言に寄与できることや、他のFTAに関する研究にも貢献することができます。
このように、上記は一例ですが、あなたの研究が意味のあるものであると主張できることが重要です。
先行研究
ここでは、あなたが立てたリサーチクエスチョンに関連する過去の先行研究をまとめます。この部分は、多くの先行研究を紹介することで、学術的な論争が盛り上がっていることや、あなたがこのテーマに関して専門性を持っていることを示すために重要です。先行研究の多さは、あなたの研究の信頼性を高めるだけでなく、「他の人が同様の研究を行っている」可能性を軽減するのにも役立ちます。
正直に言いますと、評価される研究計画や論文を執筆するためには、膨大な数の先行研究を読む必要があります。しかし、これが重要です。先行研究を十分に把握することで、研究の質が向上し、研究の意義やオリジナリティを見出すことができます。
先行研究は、論文の質を向上させるための基礎であり、あなたの研究の発展の基盤となります。RPGのゲームで例えると、先行研究の理解が経験値になります。ですから、あなたの研究テーマに関連する論文を、重要性の高いものから順に読んでいくことが大切です。
先行研究の知識を蓄積するためには、毎日コツコツ論文を読むことが大切です。
下記、記事で物事を習慣化するコツについて記載しているので興味のある方はぜひ!
研究手法・データ
「研究手法・データ」では、あなたのリサーチクエスチョンに対して、どのようなデータや分析手法を用いて明らかにするのかを説明します。研究手法は大きく分けると、「定量研究」と「定性研究」があります。過去の先行研究をベースに、あなたがどの研究手法を用いるのか事前に決めておくことが大切です。また、テーマの選定でも記載したように、データにアクセスできないなどの問題が生じないように、あなたの研究が実行可能かどうかを事前に把握しておくことが非常に重要です。
例えば、あなたが「アフリカ諸国におけるコロナウイルスが初等教育にもたらす影響」というテーマを決めたとします。このテーマは社会的意義が高そうで興味深いですよね。しかし、アフリカ政府や国際機関がそのテーマに関するデータを公表していない・もしくはそもそもデータが存在していない状況だとすると、研究を実施することは不可能です。
どれだけ、社会的・学術的な意義が大きく素晴らしいリサーチクエスチョンを立てることができても、実際に研究が行えないのであれば意味がありません。したがって、研究計画の段階で確実なものにしておくことが重要です。
研究手法の種類に関しては、様々あるので、また別の記事で紹介しますね!
まとめ
この記事のポイントをまとめると以下です。
- まずは研究テーマを選定する
- 研究テーマは独自性があり、社会的・学術的に意義のあるものである必要がある
- 利用するデータがアクセス可能なのか事前に調べる
- 研究計画の構成を作成する
- テーマに関連する先行研究を網羅する
- 作成した構成に基づき、研究の意義を意識しながら執筆する。
この記事を読んで、あなたの研究に役立てることができれば幸いです。質の高い研究計画書を作成することで、論文の完成度はかなり高まります。先行研究などの網羅は手間がかかりますが、根気よく取り組んで目標を達成しましょう!
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